オフィス等の不動産賃貸において、 契約時に 賃料の数か月分の保証金を 支払うことがあります。
契約終了後も 借主に返還されない 保証金の額が設定されることがありますが、 実務上、 返還されない保証金に係る領収書等は 契約終了に伴う精算時に交付されることが多く、 契約締結時において 交付されることは少ないです。
この点、 インボイス制度では、 契約締結時等、 保証金が返還されないことが 確定した時点で 領収書等(インボイス)の 交付・保存が必要となります。
契約締結時等に “返還されない保証金に係るインボイス”が交付されない場合は、 借主は 貸主にその交付を 求めることが必要です。
オフィス等の賃貸借契約時に 借主が支払う保証金について、 賃貸借契約の終了等に伴い返還するものは 消費税が不課税となる一方、 借主に返還しない(償却する)保証金は 資産の譲渡等の対価として、 オフィス等の事業用であれば 消費税が課されます。
返還しない保証金の課税資産の譲渡等の時期、 すなわち貸主の課税売上げ・借主の課税仕入れの計上時期は、 返還しないこととなった 課税期間とされています。
不動産の賃貸借契約では、 借主が支払う保証金の返還について 「契約終了に際し償却額を控除する」 などと定めていることがあります。
このように契約当初から、 保証金の一定金額を返還しない旨が 定められている場合、 契約締結時において 保証金の一部を返還しないことが確定しているものとして、 契約締結時が 課税資産の譲渡等の時期となります。
この場合、 その契約締結時の課税期間において、 返還しない保証金の全額を一括して 貸主の課税売上げ・借主の 課税仕入れに計上することになります。
現行の消費税法では、 不動産の貸主側に 請求書や領収書等の交付義務はないため、 契約締結時等、 保証金を返還しないことが確定した時点でも その金額に係る領収書等を 交付する義務はありません。
実態としても、 借主から保証金の全額を 受け取るタイミングの契約締結時において、 貸主が借主に対し返還しない保証金の金額に係る 領収書等を交付することはあまりないようです。
また、 借主は、 契約締結時に返還されない保証金に係る 領収書等の交付を受けることができなかったとしても、 「請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由がある」として、 帳簿のみの保存等により 仕入税額控除を適用することもできました。
しかし、 インボイス制度では、 インボイス発行事業者である貸主には 課税資産の譲渡等があった時において、 借主の求めに応じて 返還しない保証金に係るインボイスを交付する 義務が生じてきます。
借主にとっても、 返還されない保証金の金額に 仕入税額控除を適用するには、 貸主からインボイスの交付を受け 保存することが必要なのです。
契約締結時に 保証金の一部が返還されないことが 確定している場合は、 その契約締結時が 課税資産の譲渡等の時期となり、 インボイスの交付義務が生じます
この場合、 貸主はその契約締結時に、 返還しない保証金の金額について 「登録番号等のインボイスの記載事項を記載した領収書等を交付」、 又は「登録番号等のインボイスの記載事項を追記した契約書を交付」、 いずれかの対応をとることになります。
契約当初から、 保証金の一定金額を返還しないことが 確定している場合だけでなく、 一定期間経過ごとに 一定金額を返還しないことが 確定する契約もあるようです。
この場合、 一定期間経過ごとに 返還しないこととなる金額につき 課税資産の譲渡等があったものとして、 貸主は課税売上げ、 借主は課税仕入れを 計上するため、 その都度、 当該金額分に係る インボイスの交付・保存が 必要となります。
また、 契約締結時に保証金のうち 一定金額が返還されないことが 確定していても、 契約内容等によっては 返還されない保証金の金額が 最終的に変わることもあるようです。
契約締結時点における 返還しない保証金の金額に係る インボイスを交付・保存し、 最終的にその金額が異なる場合には、 その保証金の精算時(契約終了時)に 修正インボイスの交付・保存により、 差額分をその金額確定時(契約終了時)の 課税期間の消費税額に、 加算又は減算する対応を とることが考えられます。
返還しない保証金に係る インボイス対応の周知等は あまりされていない模様で、 その認知度は低いとみられます。 制度まで4カ月を切りましたが、 制度開始までに準備をしておきましょう。
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